中世ヨーロッパも戦国時代の日本も同じ香りがする
武力で相手のものをぶん取る中世は、洋の東西を問わず、やはり甲冑で身を固める男どもが跋扈していた時代であった。
身なりでいうと、日本の鎧のほうが色がついているというか、装飾的で芸が細かい気がするものの、プロテクトする場所はだいたい同じ。
ヨーロッパの甲冑は、鉄板で覆っているからか、なんだかそのままブリキ人形とかロボットに進化しそうなデザイン。
そうか…日本は湿度が高いので、金物は錆びてしまうから、身に着けるものとしてはあまり適さなかったのかもしれない。刀も粉を振って錆びから守っているくらいだから、気候の違いで日本では金物を多用できなかったのだろう。
では、戦争そのものはどんな感じだったのだろうか。
たとえば、中世ヨーロッパの戦争は、冬は行わないのが普通だったという。これも日本の雪国での戦争と同じで、越後の上杉謙信の軍は、夏の間に出かけて行って、雪が降る前に越後に帰って行った。ヨーロッパは日本よりも寒冷地なので、冬の野戦は難しいのだろう。
剣にせよ、武具にせよ、ヨーロッパの方が金物が多く、金属はマイナスの気温だと、触っただけで皮がめくれてしまうか、固い雪が団子のようにくっつくから冬の戦争は適さない。野戦で敵と戦う前に凍傷になるわけにはいかないのだから。
騎士の甲冑の移り変わり
中世騎士の野戦にまつわる話や「突撃!」について話をしたい。
まずは格好からということで、身なりについて。
最初のころ、つまり12世紀の甲冑は上記の鉄板で覆われた格好ではなく、鎖帷子(くさりかたびら)のロングコートが基本であった。ふだんはその上からサーコートと呼ばれる布製の外衣をまとう。それは直射日光から鎖を守って熱くならないようにする役割もあった。
こちらのタイプは、表面が布で、ビスで留めているのだろうか、単純な鎖帷子とも違うが、手の込んだものである。
映画「キングダム・オブ・ヘブン」を見ると、12世紀の十字軍を題材にしており、ちゃんと鎖帷子で覆われた人々が戦争していた。フランスからエルサレムに赴いてかの地で戦うわけだが、さすが映画なだけあって、迫力ある戦闘シーンが見もの。投石機でバンバン城壁を破壊し、油の火の玉で迎え撃ち……と当時の様子を視的に理解したい人は映画観賞もいいかもしれない。
さて、話を戻して……鎖帷子は動きやすかったが、鉄の輪を繋ぎ合わせていたので、矢を突き通してしまう欠点があった。
そこで、13世紀以降は、ハンマーで打ち伸ばした板金を留め金と皮ひもでつなぎ合わせたもので身を守るようになる。
14世紀は、体のほとんどを覆う「板金鎧」と呼ばれるもので完全武装した。首などの関節部分は鎖帷子で保護した。板金鎧は重さは25キロもあり、もっとも豪華なものは、兵士の10年分の収入に値するなど、恐ろしく高いものになっていた。
一般的なイメージは、15世紀以降の馬に乗った騎士の姿ではないだろうか。
馬に乗った騎士は中世ではずば抜けて強くて誰からも恐れられていた兵士だった。
騎士の馬も、強くて、勇ましくて、俊足。優秀な軍馬は、普通の馬の値段が20倍もしたが、2頭以上持っている騎士も多かった。そのほか、鞍、ベルト、手綱、蹄鉄、あぶみ、スパイクのついた拍車など装飾品はもちろん、小姓も必要。騎士はお金持ちの子弟しかなれないというのは本当だろう。
武器
戦争には騎士のほかに、弓兵、歩兵が必要だ。そして、それぞれに持ち物が違う。
最初のころの歩兵とは駆り出された農民で、使えるものは何でも、干し草用のフォークなどでさえも武器にして戦った。
また、敵に弓の雨を降らす弓兵はどの軍にも欠かせない存在。ただし、突撃されたら身を守れない。
一方、重騎兵は自分の力に見合った武器を選んだ。剣はもちろんだが、板金の鎧をまとった騎士を倒すにはハンマーや打撃棒が有効だった。
当時、あまり合同で訓練することがなかったせいか、戦いは一気に突撃ということも多かったようだ。
本などで騎士の突撃シーンのシュミレーション図を見ていると、戦隊の順序が日本とは逆のように見える。突撃側の騎士が先頭に立って「相手を叩きのめしてやろう」と飛び出し、歩兵がその後ろを走るという…騎士は勇ましいのか、ノリがいいのか。
一方、迎え撃つほうは槍を持った歩兵が前で、その後ろに馬上の騎士がひかえている…それは理解できる。
結果は抜け目のない戦術のほうが勝つのが常で、横から待ち伏せや奇襲のほうが有利であった。なにせ、突撃して肩透かしに遭った場合、急に止まれないのだから横から突き入れられれば大変なことになる。そいうわけで大軍が勝つとは限らなかった。
時代が変わる…騎士が馬を捨てて徒歩で戦う
さて、馬に乗って勇ましく突撃という“いかにも騎士”たちは、いつまで通用するのだろうか? ……
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