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伊勢神宮【4】初めての御垣内参拝

内宮の正宮 東海

御垣内参拝とは

「みかきうちさんぱい」というものをご存じだろうか? 聞いたことない、という人もいるかもしれない。伊勢参りのひとつであり、通常の参拝では行けない場所、もっと神に近いところでの二拝二拍一拝(二礼二拍一礼)をする特別な参拝である。

「おかきない」「おかきうち」「みかきない」「みかけうち」というワードで検索してくる方もたくさんいるが、「御垣内」の読みは「みかきうち」が正しい。また、「正式参拝」「特別参拝」と検索される方も大勢いる。御垣内参拝をどうやればできるのか、皆知りたがっているのだろう。

伊勢神宮内宮(ないくう)および外宮(げくう)の御正宮(ごしょうぐう)、つまり祭神の天照大御神(あまてらすおおみかみ)がおわす正殿に参拝するのを「伊勢参り」と呼ぶ。下の写真の鳥居をくぐり、塀の中に入って目の前の垣の外側から正殿に向かって手を合わせて参拝する。これが普通であるのだが、どういうわけか、ときたまスーツ姿の一般人が神職の方に導かれ、垣の内側、つまり一段と神様に近い場所で二拝二拍一拝している姿を目にした人もいるのではないだろうか。

内宮の正宮
内宮の正宮。鳥居の奥の垣が4つめの垣「板垣」。この内側に入り、通常はそこから参拝する。
写真の無断転載について:公には認めていませんが、無断で使用する場合は、せめて出典として該当ページのアドレスをキャプションに入れてください。それがない場合は、一切の転載を禁じます。

垣の外にいるしかない我々と、もうひとつ垣の内側に入ることを許されているその人と、何が違うのか。どうやったらアレができるのか。はたまたVIPか、皇族なのか…。かつては私も「あの人、なんで入れるの?」と思って見ていた。

そう。あれが「御垣内参拝(みかきうちさんぱい)」というものなのだ。

内宮の御正殿は4つの垣で囲まれている

御正宮は、瑞垣(みずがき)・内玉垣(うちたまがき)・外玉垣(とのたまがき)・鳥居と一体になっている板垣(いたがき)の四重の垣で囲われていて、私たちは通常板垣の内側、外玉垣の外からお祈りする。御垣内参拝はそのもうひとつ内側、2つめの内玉垣の外、外玉垣南御門内から参拝するのをいうのだ。実はこの御垣内参拝、だれでもできるものではなく、別途申込みが必要となる(後述)。

さらに、御垣内参拝するなら、正装の義務がある。男性ならスーツにネクタイ必須。女性もそれ相当の身なりが求められる。礼儀として衣服を正し、心身ともに清らかな状態でなければ神に近づくことが許されない。下記参照のこと。

崇敬会会員証裏
崇敬会会員章裏

前置きが長くなったが…私はこれまで御垣内参拝をしたことがなかった。祈祷は経験済みだが、御垣内参拝を知っていたものの、気後れしているのか何なのか。
あるとき気分の一新があって、2015年に思い切って「今こそやろう」と思い立った。
そして翌日、スーツを着て大阪から特急に乗って伊勢へと向かった。

以下、文字ばかりになるが、神域の写真は撮影不可であるのでお許しを。
その代わり、 short movie が公式チャンネルであったので、youtube を紹介する。普段は撮影不可の場所、つまり内宮の中まで撮影されているし、何よりクオリティがとても素晴らしい。

【伊勢神宮】 SOUL of JAPAN ISE-JINGU

もともと天照大御神をお祀りしていたのは天皇家

現在、天照大御神をお祀りしているのは伊勢神宮であるが、もともと天照大御神を皇居でお祀りしていたのは天皇家だった。
2000年ほど前のこと。飢饉などなかなか天変地異がおさまらず、国が荒れて、いろいろ努力はしたものの、よくはならない時期があった。
崇神天皇は、「もしや神様のお力が弱まっているのでは」と考えた。これまで皇居で天照大御神をお祀りしてきたが、人と神様との距離が近すぎ、「それは恐れ多いことなのではないか」と思い至った。

そして行動に移される。
天皇の御息女にお移りいただく場所を探させ、そして、かの地が選ばれた。新しい場所で、力をお蓄えいただき、国の繁栄を見守っていただこう、と。
そして後年、天武天皇の御代には、20年に一度、すべてを真新しくしてまた新しい力を得ていただこうと、制度として式年遷宮が定められた。

これが伊勢神宮への遷宮および式年遷宮の起こりである。そういう行事が、日本で1300年くらい続いているということなのだ。

式年遷宮
20年に1度の大祭、神宮式年遷宮(じんぐうしきねんせんぐう)は、正殿(しょうでん)を始め御垣内(みかきうち)のお建物全てを新造し、さらに殿内の御装束(おんしょうぞく)や神宝(しんぽう)を新調して、神儀(御神体)を新宮へお遷し申し上げる、我が国で最も重要なお祭りのひとつです。
神宮の古伝では神宮式年遷宮は、天武天皇の御発意により、次の持統天皇4年(690)、第1回の式年遷宮が内宮で行われました。以来、戦国時代に中絶するという事態に見まわれながらも、1300年にわたって続けられ、平成25年秋には第62回の神宮式年遷宮が古式のままに行われました。

伊勢神宮:神宮式年遷宮の概要 より引用(すでに該当ページ削除)

式年遷宮
さやこ

天皇陛下の伊勢参拝

ところで、天皇陛下の伊勢での参拝であるが…
さらに内側の垣の中に行けるものの、実は天皇陛下であっても、正殿に上がることができない。玉砂利の上で庭上祭祀を行い、外から天照大御神にお祈りされる。
ほかの皇族はというと、秋篠宮殿下の場合、3つめの垣の外から参拝するのはわれわれの御垣内参拝と同じだが、距離が違い、より神様に近い垣のすぐそばで行われるらしい。
皇太子殿下となると、2つめの垣の外から参拝されるとのこと。地位によって神様に近づける距離が異なるのだ。

このことを思うと、天皇陛下、皇族、さらには神職の方々は、神と一体化するというよりも、神との距離を保ち、国家の安泰、国民の幸せなどを願い、それを神に奏上する、取り次ぐ役割に徹していると感じるが、どうだろう。

2013年の第62回式年遷宮をテレビで見ていると、黒田 清子さん(上皇陛下の御息女)など皇室の女性が重要な役割を果たされているのが映し出され、あのとき「あぁ、皇族とは、こういうときに活躍されるのだ」「神道行事で重要な役割があるのだ」と気づいた人も多いことだろう。
天皇家、皇族が何をしてきた方々であったのか、多くの人があのとき初めて気づいたに違いない。かくいう私もそうだった。
戦後から、天皇陛下の皇女が伊勢神宮のトップである神宮祭主をお務めになるのが慣例となっている。女性皇族ならではの役割がちゃんとおありなのだ。

【補足:日本人にとっての天皇とは】

ここで書ききれることではないとわかっているが……国民にとって天皇とはどういう存在であったのか、私がようやく実感できたのは、歴史小説家、山岡荘八著『徳川慶喜』『小説太平洋戦争』を読んでからであった。
戦前の思想を憎悪する側の視点から離れ、「そもそもアレはなんだったのか? どうしてあんなことになったのか?」と過去に疑問を持っているなら、それらの小説を読むとスッと腹に落ちるかもしれない。

戦前までの日本人は皇室をとても大事に思っていた。そして、国旗をないがしろにすることなどあり得なかった。天皇陛下の分身であるかのように大切に扱ったので、敗走するときも置いて逃げるような真似はしていない。

昔から国民は天皇陛下にとって大御宝(おおみたから)であった。天皇陛下は大御心(おおみこころ)をもって国民を慈しみ、そしてこの天皇陛下と国民の関係は契約などこれまで存在しなかった。契約などなくても信頼関係で結ばれてきた。この稀有な国が日本である。

ちなみに、こういう団結を嫌がり、バラバラにして分断統治したのがGHQであったのは言うまでもない。

御垣内参拝するには

さて、御垣内参拝するには、伊勢神宮唯一の財団法人「伊勢神宮崇敬会」に入会して、御垣内参拝できる権利を与えられねばならない。それは崇敬会が運営する伊勢参りの宿「神宮会館」のフロントで申し込むことができる。たしか電話での問い合わせや振込みなどでも対応可能だったはず。その場合、会員章発行までに1週間ほど必要なようだ。

補足2015年:過去は伊勢神宮内で数千円支払えば御垣内参拝できる方法 (式年遷宮への奉賛) もあったのだが、「どうやらそれは今はないらしい」とのこと。

補足2017年:私が3回目の御垣内参拝をしていると、あるラフな格好をした男性が「どうやったらアレができますか?」と正宮の御垣内参拝担当神職の方に聞いていた。今回はその(ラフな)格好であるため、御垣内参拝は無理なので次回されてはどうか?と。さらには「祈祷受付のところで詳しく聞いてください」と説明されていた。補足2015年の話はどうなっているのか不明。

補足2019年:もう一度、神宮会館の方に「神宮の崇敬会員でないと、御垣内参拝はできませんか?」と聞いてみた。すると、「いいえ。神宮で寄付すればできますよ」とのことなので、各自お調べください。

補足2021年:この時は友人親子とともに参宮した。子は未成年であったので、崇敬会には入れない。ということで、御垣内参拝のときに神職の方に言えば親の同伴ということで「同行させてもらえるかもしれない。もしそれが無理なら、神楽殿かどこかでいくらかの寄付をすればOK」という話も聞いた。実際は親が参宮章をもっていれば入れてもらえた。

崇敬会および神宮会館の場所等については>>伊勢神宮【2】神宮会館と早朝参拝

神宮会館
神宮会館

今回の伊勢参りは、古来の習わしに従い、外宮に参拝してから、バス停「神宮会館前」で下車し、神宮会館に立ち寄り、会員の手続きを済ませることにした。
会員にも、いろいろ段階があって、私は年に1回のみ御垣内参拝できる準会員を選んだ。
会費:3000円
そのほか、正会員などいろいろあるのだが、段階ごとに権利が違う。正会員ならば、何度でも御垣内参拝が可能である。

割り込み、割り込み。

会員制度が近年変わったので、変更点は各自確認されたし!

当日申込み、まずは仮会員章を発行してもらった。これを持って内宮へ行けば、御垣内参拝できるとのことだった。

仮伊勢神宮崇敬会会員章
伊勢神宮仮崇敬会会員章
伊勢神宮崇敬会会員章
伊勢神宮崇敬会準会員章
伊勢神宮 参宮章
参宮章と勾玉ストラップ

さて、その仮会員章だが、どこに出せばいいのかわからぬまま内宮に到着した。
「やっぱり、まずは祈祷なのかな」と祈祷申込み場所で本券を見せる。

「あのぅ、御垣内参拝をしたいのですが」
「これを御正宮左手にある宿衛屋に持っていって見せてください。それでできますよ」
「よくわからないので教えてください。祈祷を受けてからではないといけませんか?」
「いいえ。これがあれば、御垣内参拝が可能です」
「そうですか。ところで、普通、祈祷を受けてから御垣内参拝するものなのでしょうか?」
「人それぞれですよ。お願い事があるなら、祈祷を受けられてもいいですしね」

そうか。私はお金を払って御垣内参拝するという感覚でいたのだが、そうではなく、崇敬会に入るということでそれが可能になるだけなのだ。御正宮ではお金の授受はしておらず、「お願いがあるならここで祈祷を」ということは、御垣内では個人的なお願いをするところではないということでもある。

大勢の人に混じって、御正宮に着いた。入って左手の詰所に神職の方がいたので、仮会員章を見せて御垣内参拝を申し込む。
記帳を促され、自署すると、中に招じ入れられ、まずはお清めを受ける。そして、奥へ奥へと進み、垣の内に入った。神職の方の後ろに従って歩いていると、大きな玉砂利を踏みしめる足音と、開けた視界、澄んだ青空だけを感じた。

平和だなぁ。清々しいこの晴天のように、私の環境は平和そのものなんだ…。

ど真ん中に来ると、「どうぞ」と促され、多くの人の注目を浴びつつ、二拝二拍一拝を心を込めて行った。
その短い行為の最中、私なりに礼を尽くしたつもりだ。

終えてみて、私にとって神様は「伊勢の青い空」という認識になった。 天照大御神は太陽であるらしいが、理屈や事実など、われの知るところではなかった。私にとっては空、色でいえば水色。 澄みわたる天の彼方。
とにかく、そういうことになった。

目の前の青空は澄み渡っていた。

宇治橋
宇治橋

追記:外宮でも御垣内参拝できることを4回目にして気づく

御垣内参拝は内宮だけだとずっと思っていた。。ところが、2019年1月、平成最後の御垣内参拝をしにまずは外宮のご正宮へ入ると、左手に内宮と同様の詰め所があるではないか…。なんと、アホな私は御垣内参拝は内宮だけだと思い込んで目に入らなかったのだ。
詰め所の神職の方に質問をする。

「あのう…外宮でも御垣内参拝できるのでしょうか?」
「できますよ」
「前からできたんですか?」
「前からあります」

2021年伊勢神宮崇敬会会員章
2021年伊勢神宮崇敬会会員章

2021年の会員章には「外宮」「内宮」の文字が。私のような勘違いが多発しているせいか、ちゃんと書いてくれている。

4度目にして、初めて外宮御垣内参拝を体験する。
いつも晴れの伊勢参りだが、今日も清々しく凛とするお天気だった。
心のモヤが晴れ渡るような、そんな気持ちになった。

>>伊勢神宮【1】前売り限定の近鉄「伊勢神宮参拝きっぷ」

>>伊勢神宮【2】神宮会館と早朝参拝

>>伊勢神宮【3】神宮会館のバラ園

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