城の建設は10年以上
城は中世という時代を通じて、常に領主の勢力を維持する役割を果たした。平時は政治と産業の中心地となり、戦時には頑丈な要塞として敵の攻撃から防御した。
そのほか、蓄財や重要文書の管理・保管、裁判所、牢獄、大工や金属加工職人らの作業場、宴会場、さらには男女の求愛場所でもあり、とにかく何事においても中枢機能があったのが城、およびその周辺ということになる。
さて、その城であるが、想像どおり築城は大事業であり、10年以上の年月を要した。
城造りは石工の親方がひとりで統率し、急ぎのときは500人体制で忙しくしていた。ただし、ほとんどのヨーロッパでは冬は霜が降りてしっくいが固まらないので休み、春を待つ間に作業小屋で次年にそなえて作業をしていた。すべてを人力で積み上げ形成するとは、とてつもない労力を要したに違いない。
城の攻防戦
人間の知能を傾けて編み出された武器や城の設計、そして知略…命のやりとりが行われる場というのは、いつの時代も進化を遂げ続けるものであるらしい。
たいていは、相手が戦術を工夫すれば、その工夫を上回る手を使うなど、一旦始まってしまえば城の攻防戦は激烈なものとなった。
飛び道具、弓、破城つち、火、地下トンネル、さらにツルハシで壁を砕くなどのほか、守備隊にわいろを渡したり、騙したり、包囲して飢え死にさせたりといろいろ。降伏させられればなんでもいい。
- 攻撃軍が梯子をかける、侵入:守備隊は上から石はもちろん、煮えたぎったお湯や油を投下する“死の集中豪雨”でお出迎え。最後の砦は鉄の落とし格子でシャットアウト。
- 台車を造って城へ強行突入:今でいうダンプカーや戦車の突入みたいなもの。
- 攻城やぐら:背の高い台車付きやぐらに乗って兵士たちが狭間胸壁を乗り越える。最大のものは10階建てのビルに相当。大勢の弓兵と投石機を載せた。
- トンネル:岩盤の上に建った城でなければ、地下にトンネルを掘り、奇襲攻撃か支柱に火をつけるなどが有効。ただ、裏をかかれて、双方のトンネルがつながると、激しい戦いとなる。
投げ込む弾は?:
火壺、煮えたぎった液体、死んだ動物という名の“細菌爆弾”
カタパルトという投石機は、動物の毛や腱をねじり上げ、その引力を利用して最大200mも石を投げ飛ばせた。
また、トレビュシェットというもっと重い石をさらに遠くに投げられる投石機があり、釣り合いおもりを振り回して遠心力で投げ込む方式で、100kg超の石を360m以上という実力だが、手入れが必要。
映画「キングダム・オブ・ヘブン」を見ると、12世紀の十字軍を題材にしており、ちゃんと鎖帷子で覆われた人々が戦争していた。フランスからエルサレムに赴いてかの地で戦うわけだが、さすが映画なだけあって、迫力ある戦闘シーンが見もの。投石機でバンバン城壁を破壊し、油の火の玉で迎え撃ち……と当時の様子を視的に理解したい人は映画観賞もいいかもしれない。
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投石機によって飛ばしたもの…弾にしたのは石だけではなかった。ありとあらゆるものが飛び交った。
- 城から飛ばす:煮えたぎった油や水を浴びせる。
- 城に飛ばす:火事を起こさせる火のついた壺、城内に疫病を流行らせることを狙って動物の死体を投げ込んで“細菌爆弾”をおみまいした。
大砲の登場
大砲は城の攻防どちら側でも使用された。
といっても、初期の大砲は性能がよくなかったので、命中率も威力もそれほど恐れるものではなかった。そういうわけで、至近距離からの発砲でないと効果がなかったため、城の守備兵の格好の的となってよく殺されるはめになる。そういうわけで、ギャラは高かったらしい。
火薬は中国からシルクロード経由でヨーロッパ側に伝わり、彼らがその作り方を学んだのは13世紀に入ってから。初期の大砲はよく砲身が爆発して危険だった。
スコットランドのジェームス2世はイングランドの城を包囲攻撃中に大砲の爆発に巻き込まれて死んでいる。王といえどもなかなか命がけである。
城が壊れるときは一瞬:大砲の進化で木端微塵
築城するのにも、修復するのにもかなりの時間と労力がいるのに、性能のいい大砲が登場するやいなや、数発の大砲が命中しただけで城は崩壊する。城壁が崩されて突破できれば、あとは容易に中に入れるのだから。
築城に10年かかるのに、壊れるときは一瞬。……
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