ミケランジェロの裸体彫刻を拝みに渡伊した女
天野川は筋肉フェチである。もちろん、距離を保ち眺める専門だ。
とすると、一生に一度は裸体彫刻の頂点であるミケランジェロの傑作「ダヴィデ王像」を拝まねばならない。あるとき、まとまったお金が手に入ることになって、真っ先に思ったのは「イタリアに行こう!」だった。それも、フィレンツェに。
フィレンツェのアカデミア美術館に彼はいる。
世界中の女性をうっとりさせる彼をひと目みたい。たとえフィレンツェに彼しか見たいものがなかったとしても、私は行っただろう。
2019年のことだった。
それから私は自分だけの目の保養にしてきたが、思いつく限りの角度で撮影しまくってきたので、皆さんにも披露しようと思う。コロナ禍では美しいものに心癒される時間も必要であろうから。
予約してあさイチにそこを目指した理由
フィレンツェは芸術の宝庫だが、なかでも「ウフィツィ美術館」と「アカデミア美術館」が芸術の双璧だろう。
どちらが上かなんて、ちょっとどうでもいいが、一般的に日本人にはウフィツィ美術館のほうに軍配が上がる一方で、アメリカ人にとってはアカデミア美術館のほうが人気あるという。理由は想像つくだろうか?
答えは、キ・ン・ニ・ク♡LOVE
アカデミア美術館にダヴィデ王殿がいるから。強さの象徴が好きなアメリカ人ぽいなぁと。わかる気がした。
アカデミア美術館の予約はWeb上で済ませた。当然あさイチにした。
なぜなら、そこに人が群がることが予想されていたので、一番に乗り込んで、最もいい位置で、最も観客が少ない中で拝み、撮影したかったからだ。予約で16ユーロ。いいお値段だが、撮影自由だからいいよね。
この時のために、カメラ機能が優れているスマホに買い替えたほどだ。
パッションほとばしるカメラマンと化した
では、時系列で写真を披露することにしよう。
手の血管スゴイ↓
血管フェチにはたまらない。石をいつでも投げつけられるように構えている。実はこの像は戦闘態勢に入っているのだ。
天野川が一番興奮したのは、太ももの隆起。
大理石なのに生身の人間みたいに今にも動き出しそう…。
ここからいったんほかの作品鑑賞に移る。
そして、まだ足りないと思い、後ろ姿を追加撮影。
アバラ好きならコレ↓
ミケランジェロとダヴィデ王像
ミケランジェロは、26歳のまだ青年時代にこの大作を手掛けている。
実は、最初はほかの作家が請け負ったダヴィデ王像。頓挫して25年放置の末、若きミケランジェロに白羽の矢が立った。彼は3年の歳月をかけて完成させたのだ。
あまりに素晴らしすぎて、ヴェッキオ宮殿の前に置かれるのだが、当時から劣化が懸念されていたようである。1873年にシニョーリア広場にあった彫像を風雨による損傷から守るために移設し、それ以来ここの目玉展示品になっている。
ミケランジェロは気難し屋ではあったが、多くの作品をパトロンのオーダーのもとしっかり打ち返した。
長らく芸術界を引っ張り、レオナルド・ダ・ヴィンチのライヴァルとしての存在感もあった。やがてフィレンツェが落ち目になるとローマに行き、そこでも活躍する。
未完彫刻
このアカデミア美術館には、7点という世界最多のミケランジェロ作品を所蔵している。
さきほどの「プリジョーニの回廊」にも一連のミケランジェロの未完彫刻が並んでおり、ユリウス2世の墓のために15世紀前半に制作された4つの奴隷の彫刻がある。
これもミケランジェロ作、未完の「パレストリーナのピエタ」。
筋肉隆々で、死んでいるように見えない。
ピエタとは磔刑に処され死にゆくキリストを抱く聖母マリアなのだが、イエスを抱きかかえる中央の男がやたら目立っており、マリアがわき役になっている。
実はこれ、ミケランジェロの作ではないのではないか、という説もあるようだ。↓も違う角度で。
ミケランジェロの奴隷像が4つ続く。
ミケランジェロ「アトランテ(Atlante)」
未完作品群はダヴィデ王像の引き立て役にしか映らなかった。
こうなったら、どれほどホンモノのダヴィデ王像が素晴らしいのか、レプリカも紹介しよう。
レプリカ★ミケランジェロ広場
フィレンツェのミケランジェロ広場にもレプリカであるが、ダヴィデ王像がいる。
まさか、これを見て、満足する人などいないと思うが…これは明らかにホンモノを引き立てる役でしかない。まぁ、台座にはミケランジェロの作品の集合体を配しているから、別物ということで。
レプリカ★ヴェッキオ宮殿前
ヴェッキオ宮殿前ということは、当初の設置場所である。
じっくり見ても、やはり本物とは違う気がするのだ。
ミケランジェロ作品いろいろ
イタリアでは、できるだけミケランジェロ作品を見ようと旅程を組んだ。上記以外を紹介する。
ドゥオーモ付属博物館(フィレンツェ)
磔刑から降ろされた死するキリストを悲哀のマリアが抱きかかえるピエタ。ピエタ像をライフワークにしていたミケランジェロの作品のうちのひとつ。
そして、この老人はミケランジェロ本人を描いているのだとか。ヴァチカンのサン・ピエトロ大聖堂のピエタは若かりしミケランジェロが製作した。
こちらはそれから50年後の作品。未完成とはいえ、心に来るものがある。
サン・ドメニコ教会(ボローニャ)
若き日のミケランジェロの彫刻を見るために、ボローニャのサン・ドメニコ教会にも訪れた。ここの豪華な祭壇に3体だけあるという。
かなりの数があるが、パッと見てもどれも素晴らしいので、よくわからなかった。
答えを言う。1つめ、石棺右に聖ドミニクの物語を描いたロウソクを持った天使。
2つめと3つめは、「聖ベトロニウス」と「聖プロクロス」というが、どちらがどうなのか…。
石棺の間の入り口に写真解説発見。カンニングしなければ、それとはわからない。
いかにもミケランジェロというわけではなかったが、衣服のひだや均整の取れた姿は素晴らしい。
それにしても、ミケランジェロの追っかけ旅のようなイタリア旅行であった。
あれから2年が過ぎようとしている。
いつでも行ける、金さえあれば…そんなことは思えなくなった。コロナで海外が遠くなった。
芸術も、街並みも、有限であるのだ。私は美を間近で観賞する奇跡を得た。間違いなく、自分を幸せ者だと感じる。