【木彫り作家 藤戸竹喜】熊と狼への入魂

藤戸竹喜 メイドインジャパン
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展覧会「現れよ。森羅の生命―木彫家 藤戸竹喜の世界」

思いがけなく、久しぶりに素晴らしい作品を見た。そんな感動があったので、北海道の木彫り作家、藤戸竹喜(ふじとたけき)氏の作品を紹介したい。

藤戸竹喜2017年末、母から「アイヌの木彫り展があるから、見に行こう」と誘われ、札幌芸術の森美術館へ赴いた。何の予備知識もなく、藤戸氏の作品展に行って、心底驚いた。どれもこれも素晴らしいのは間違いないが、そのテクニックよりも、見る人は皆彼の作品を好きになったことだろう。私は他の観覧者たちの満足そうな顔をたくさん目にした。

北の動物たち。アイヌの人々。彫る対象はいろいろだが、「これって、藤戸氏の愛が詰まってる」と思った。

作品:生きとし生ける者への愛?それとも北海道の自然に対する愛

撮影OKだったので、とにかく撮った。説明よりも、まずは作品群を載せる。

アイヌの木彫りといえば、熊が有名だが、その熊彫りを父から家業として叩き込まれ、ご自身も「熊を彫り続けて70年。熊こそが私の原点であり帰り着く所です」と言い切っている。

藤戸竹喜藤戸竹喜

藤戸竹喜

昔は、よく子熊を飼っていたそうだ。
アイヌにとって、熊は神聖な生き物であり、神(カムイ)そのものである。

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明治期の狼の絶滅に何かを感じて

ここからは狼の物語。

藤戸竹喜

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さて、展覧会を見終わって、エントランスに出ると、なんとご本人がいらっしゃった!

私は感動を胸に、藤戸氏に近づき、心からの賞賛の言葉をお伝えして、握手をしてもらった。80歳を超えたエカシ(長老と言っていいのかしら?)は、逞しくて素敵な男性だった。

「とっても素晴らしかったです。感激しました」
「何がよかったですか?」
「私は、狼!」
「ははぁ。狼ですか」
「ええ。あの最後に展示されていた狼は、最近彫られたものなんですね。線が柔らかくて、表現が豊かで。特に、狼が人間に絶滅させられてしまったのは、知っていたので何か感じるものがありました」
「私も、あれは何とかしたいと思っているんです」

「狼のこと」

「けものへんに良いと書いてオオカミと読みますが、この由来をぜひ知りたいものです」とあったが、古来日本でも狼は神使であり、尊い存在なのであった。
そのあたりは、「オオカミが日本武尊の道案内をし、その勇猛、忠実さから、使い神に定められたと伝えられている」と天野川の過去の記事で書いた。オオカミ=「大神」である。

>>「【秩父 三峯神社】霧とオオカミと神の湯」の「オオカミ信仰の地」を参照されたい。

阿寒湖アイヌコタンの伝統

実は、私はアイヌの木彫りが大好きだ。
阿寒湖アイヌコタンでは、イヤリングや手鏡、かんざしなど、素晴らしい工芸品を目にしていくつも購入し、今も大切に使っている。

藤戸氏は阿寒湖温泉街に工房を構え、ご自身の木彫りミュージアムを持つ重鎮だ。以下の記事を紹介する。

External Links>>アイヌ民族の誇りを彫刻に懸ける木彫家・藤戸竹喜氏

この記事で、札幌駅西口のコンコースにある大きなアイヌ民族の木彫りのエカシ(長老)像も藤戸氏の作品であったと知った。道理で凄いわけだと妙に納得した。

藤戸竹喜

ほかの場所ではめったと素敵なアイヌ工芸品やら作品に出会わないことにがっかりしてきたが、この作品展で再びアイヌの木彫りに満足できた。それどころか、感動している。

多分、阿寒湖アイヌコタンの工芸は伝統として残っていけるだろう。藤戸氏のような重鎮が牽引役になるだろうし、ほかの方々の民芸品店でも良いものがたくさんあったので、そこでは彫っている人がアイヌの誇りとして作品に良い入魂が行われているのだろう。

人間であれ、動物であれ、彫る対象は「生」ある存在。彫り手の心、それはそれは嘘はつけない。全部見えてしまう。
知らぬ間に入魂しているわけだから。

あぁ、また阿寒に行きたくなった。

追記

藤戸さんは、この展覧会から1年と経たない2018年10月26日にご逝去されました。

大変残念です。
心よりご冥福をお祈りいたします。

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