ジャーマンブランデーの定番アスバッハへ
ドイツのリューデスハイムは世界的に人気のドイツワインの産地。
まさかここでブランデーを求めて歩き回ると思わなかった。
リューデスハイムにあるつぐみ横丁のカフェでは、ご当地の「リューデスハイム・コーヒー」が有名。
とっても可愛らしくて素敵な器にブランデーを注ぎ、火をつけ、コーヒーを注いでホイップクリームをごってり入れ、チョコチップを乗せるというもの。 このブランデーはアスバッハ(Asbahch)というジャーマンブランデーの定番で、本拠地がここなのだ。
そんなことを知ったのも、ホテルに置いてあった地元の観光案内パンフレットであった。
見ると歩いて行けないこともなさそう。
そして私が行動に移したのは、「リューデスハイム・コーヒー」を飲むことではなく、アスバッハ・ビジターズ・センターに行くことだった。ワイン好き、香りの高い酒好きの私としては、ぜひともアスバッハ・ビジターズセンターに行かねばならぬと張り切って訪れることにしたのだ。
天野川、知らないドイツ人の車に乗る
地図によると、リューデスハイムのニーダヴァルトの丘から歩いて下り、葡萄畑をハイキングしながら行けるはず。
これは葡萄の古木。葡萄産地を旅すれば、街路樹としてよく見かける。
葡萄畑が切れて、住宅街に出た時のこと。
自分がどこにいるかわからなかったので、住民に道を尋ねた。
あるお宅で男性二人が庭仕事をしている最中だったが、おじさんはにこやかにこちらをみて、「どうぞお尋ねください」という顔をしてくれた。
私は地図を見せ、「今私はどこにいますか?」と尋ね、アスバッハに行きたいことを伝える。
すると「歩いていくの?」と聞き、はいと答えると「25分かかるんだ」と言ってしばし沈思黙考。「教えるのには難しいんだよ」と。確かに、地図はいろいろ道があるが、目印がなさそう。完璧な住宅街。
「わかった。私の息子が車で送ってあげるよ」
「えぇ!いいんですか?」
息子は少し迷惑そうな印象だったが、おじさんは人がいいらしく、請けあってくた。息子に用意をさせている間、気さくに尋ねてくる。
「ニーダヴァルトに行ったか?」
「行きました!」
「ゴンドラに乗って、葡萄畑を見た?」
「ええ!」
「ドイツは好きになったか?」
「もちろんですとも!!ドイツの人たちは、とっても優しくて好きです」
おじさんは嬉しそうだった。旅行前、ほめる英語を覚える必要があると思ってピックアップしていたので、スッと出てくる。正解だった。
息子の車に乗ってアスバッハに到着。「ありがとう」を言うと、「いいんだよ」と言って別れた。
それにしてもドイツ人とは。。お節介で優しくて、大好きだ。数えられないほどの親切をこの国で受けた。
ドイツ旅行で知らない人の車に乗ったのは2度目のこと。
私は朝からシャンパンを飲んで、ゴンドラに乗ってスカッとしていたから、いい気分だったのかもしれないが、さすがにほかの国なら乗ってないだろう。
アスバッハ
External Link>> アスバッハ ビジターズ センター (英語)
ブランデーは、白ワインの蒸留酒のこと。
実はドイツ産ブランデー発祥の地がリューデスハイムなのだという。
施設は、フロントを兼ねたお土産スペースと、ビデオ視聴スペース、そして展示スペースになっている。
創始者のヒューゴ・アスバッハがパリに行った際にブランデーに感銘を受け、1892年、故郷に戻ってブランデーを試行錯誤してつくったという英語のビデオを視聴した。 ワインの産地出身の彼としてみれば、ブランデーに出会ったことは心動かされた出来事だったに違いない。
ビジターセンターでなにが良かったかというと、各2ユーロほどで試飲ができたこと。そして、ほかで買うよりも格安でブランデーやチョコレート菓子、その他の製品を購入することができること。どうかすると、ほかの半額だったりする。
アルコール度数38度の香りのいいブランデーをプチプライスでちびちびやりながら街を歩けたのは良い思い出である。かなりいい感じで酔っぱらって歩いた。
知らなかったが、アスバッハはドイツで著名なようだ。ここだけではなく、空港の土産物でも製品が並んでいた。
しかし…日本のガイドブックをよく読むと「フランス・イタリアの良質なワインをベースに、3年熟成されたジャーマンブランデーの定番」とあった。
ん? ここのワインではないのか? どうやらメイン原料はフランス・イタリア産ワインで、一部ここのものを使用しているよう。
ドイツワインとほかのワインの違い
ドイツワインは白ワインが有名である。それを100%使ったブランデーにできなかったのは何ゆえか?
酒飲みの友人いわく、「ドイツのワインはアルコール度数が低いから、ほかのワインと同じものと言えない」と。そのあたりから推測してみた。
南の国のワインは太陽をたくさん浴びるため葡萄が熟すのも早く、アルコール度高く、口中に含むとワインの重ささえ感じさせる。
一方のドイツはワイン産地の北限。だが、太陽の恵みが少ないぶん、かえって葡萄の熟成や果実酸の分解がゆっくりと時間をかけて進んでいくことになり、収穫期も1~2カ月遅い。これが他には類をみないさわやかな酸味と繊細な芳香に恵まれたアルコール度10%前後のワインが生み出される理由なのだ。貴腐ワインに代表されるように、手間と時間をかけたぶん、高級なワイン産地にもなっている。
この差異がドイツワインの特徴である。
確かに“薄味”な感じで、繊細でさわやか。ドイツ人もTPOに合わせて、フランスワインを楽しんだり、ドイツワインにしたりと、気分に応じて飲み分けているとのこと。
リューデスハイムで作られるワインも、アルコール度数が低いものであり、一般的なブランデーのアルコール度数が40~50%であることを考えると、ドイツワインを原料100%にできない理由がありそう。
現にアスバッハは38度と高くはない。
世界的に、ワインの産地はブランデーの産地でもある。ここリューデスハイムもドイツワインの特徴を生かした香りの高いブランデーに仕上げているのだろう。
何で勝負するのか?
何を良しとするのか?
ドイツブランデーの歴史はここから始まった。創業者はパリで他国産のブランデーに感銘を受けた。けれども、それをそのままそっくり再現したのではなく、ドイツワインらしさを取り入れたブランデーとして市民権を得たのだ。
いつかまたアスバッハをドイツで楽しみたいと思う。ドイツの気候があってこそ、あの清々しさが生まれているのだから。
割と近くにシャガールのステンドグラスで有名な教会がマインツにある。リューデスハイムを訪れたのなら、ぜひとも下記のザンクト・シュテファン教会に訪れることをオススメする。